グリーンセイバー 中西由美子さん
取材当時は環境コンサルタント会社の社員だった中西さん。現在はフリーとなって、コンサルティング、調査、教育、企画・運営など、自然環境にかかわる幅広い分野で活躍中。樹木・環境ネットワーク協会のスタッフでもあります。
人と自然をつなぎ、
その輪をさらに広げていきたい。
好きなことを夢中でやっていた
子ども時代が原点。
小さい頃は、学校から帰ってきたら宿題もせずに祖母の畑へ行って、カエルや昆虫を夢中になって捕まえるような子供でした。祖母に野菜のことを教わったり、生き物を捕まえて家で飼ったりするのが楽しくてしかたなかった。それが自然とのふれあいの原点です。
中学~高校時代は漫画やピアノや演劇にも熱中したのですが、やはり自然科学の道に進もうと大学は農学部へ。専攻は水産でしたが、山登りのサークルに入ったり、林学科の親友と演習林に入り浸ったり、本質的には山や森に興味があったのだと思います。
就職活動で初めてコンサルタントという仕事を知り、自分に向いていると直感して環境コンサルタント会社に就職。しばらくは仕事に没頭する日々でしたが、6、7年たった頃、これからは仕事以外に自然のことを人に伝えるようなことをしたいと突然思ったんです。2年間別の団体に出向して、それまでと違う仕事をしたり、いろんな出会いがあったことが影響したのかもしれません。
まずは自然系の資格を取得しようと、ネットなどで探して、グリーンセイバー、森林インストラクター、環境カウンセラー、自然観察指導員などを集中的に取りました。勉強してみると、それまでの知識も含めたすべての内容がつながってくるんです。特にグリーンセイバーのテキストはすばらしくて、それまでバラバラだった知識が整理され、生態系、人の生活・歴史が統合化されて頭の中にストンと入ってくるような喜びがありました。
資格を取ってからは、それぞれの関係するグループに所属して徐々に活動をスタート。裏方も含めて、頼まれたことはなるべく引き受けるようにしています。就職して以来日野市に住んでいることから、日野市の市民参加による環境基本計画の策定にも参加。それ以来、日野市の環境活動にもずっと関わっています。
ワーク・ライフ・
インテグレーションを広げたい。
仕事をしながらの活動なので、時間の捻出については常に悩み、考えています。いつまでに資料をつくって、下見して、勉強してと、やりくりはなかなか大変。メモを持ち歩いて、思いついたことは何でも書くようにしているのですが、電車の中などで次のプログラムのアイデアが出てきたり、ちょっとした空き時間もけっこう貴重です。
ワーク・ライフ・バランスというのはよくいわれますが、今広めたいと思っているのは、これを一歩進めたワーク・ライフ・インテグレーション。インテグレーションとは統合という意味で、ワーク(仕事生活)がライフ(個人生活・活動)に活かせ、逆にライフがワークに活かせる、両方に相乗効果をもたらすという、新しい「働き方」の概念です。
業務以外の活動に懐疑的な企業もあると思いますが、活動をすることで時間管理や自己管理に気を遣うようになったり、仕事ではできない経験や人との出会いが仕事に活かせたり、幸福感・充実感が得られたりすることで、生産性の向上、成長拡大につなげられると思うんです。実際に私も、活動を通して得られた知識や人脈が、新しい仕事を広げることに役立っていると感じています。だから、企業サイドも社員の活動を理解してほしいですし、若い人たちにそういった働き方を勧めたいですね。
教えるのではなく発見してもらう。
使命感より好奇心。
自然観察会での説明がわかりやすいといわれるのは、あんまり早口ではないからでしょうか。もともと口下手です。意識しているのは、まず自分で見てもらうこと。花でも葉っぱでも見てもらって、どうなってますか?とこちらから質問して発見してもらう。その後に必要な解説をすると、頭にスッと入ってくるんです。それに、花と虫の関係とか、生き物同士の闘いに勝つための仕組みとか、関係性や仕組みがわかると人は好奇心がくすぐられます。これを伝えることを目指しています。それから、あまりたくさんつめこまないこと。時間をかけて、ひとつの対象にじっくり向き合うことが大切だと思います。
私はこういう活動を使命感でやったことは一度もありません。いろんな人と出会ったり、自然関係から農業やまちづくりなど、いろんなところへつながったりするのが楽しいんです。やっぱり、好奇心がすべての原動力ですね。それと、仲間と一緒に何かを達成することは大きな喜びです。やるべきことが見えてくるのは、気持ちのいい発見じゃないですか。
何かしたいと考えている人には、まず現場(=自然の中)に出ましょうといいたいですね。現場が何よりの先生です。グリーンセイバーの役割はそのお手伝いをすること。一緒に自然の中を、寄り添って歩くことだと思います。
(2012年6月発行、聚レター121号より)