グリーンセイバー 吉尾恵子さん
設立当時から当協会に関わり、16年以上、小石川植物園のボランティア活動でリーダーを務めるグリーンセイバーマスター、吉尾恵子さんにお話を伺いました。
植物にはいろいろな問題を
解決する力があると思います。
第二の人生は植物に
かかわる仕事を。
最初は樹医をめざしてたの。子育てが一段落してから始めた仕事を早期退職して、第二の人生は好きなことやろうと思って、職安が斡旋する職業訓練校の園芸科に入ったのね。植物をいじってれば機嫌がよかったから。当時、園芸科は男性ばっかりで女性はふたりだけ。でもやることは力仕事でもなんでも男女平等で、卒業制作の庭作りも、班に分かれて案を出しあったら私の案を作ることになって、それで私が親方をやったの。面白かったわよ。
卒業してから園芸関係のところに就職したんだけど、木の治療もできたらいいんじゃないかと思って、大阪のセミナーに通って、山本先生や片山先生に教わりました。まだ原宿に事務所があって、ニコルさんがいたとき。そうこうするうちに、グリーンセイバーを立ち上げましょう、小石川植物園でボランティアやりませんか、という話になって、じゃぁ行こうかなって雑用係をやりだして、そのままズーッと今まで。よく続いたものよね。
つきあい方、やり方は
ひとり一人違っていい。
生まれたのは富山だけど、父親の故郷の島原に移って、そこで育ったのね。自然の中でポツンと咲いているキキョウを見たこととか、海辺に積んである電柱に止まっていた小鳥を一瞬パッとつかんだときの感触とか、近所の男の子が木に登って採ってくれたヤマモモの味とか、そういうことをよく覚えてる。それが植物や自然を好きになったきっかけかな。
園芸の仕事をしてたときに、藤が咲かないからなんとかしてくれっていわれて、いろいろやってみたら1年目で咲いたことがあったの。たくさん本を読んで、勉強して、今まで咲かなかった原因はなんだろう、虫がくってないか、踏まれてカチンカチンになってるんじゃないか、そこをほぐして肥料をやったらどうかと試して、それで翌年咲いたから、こうすればいいんだと思って。そんな感じで植物とのおつきあいはうまくいったもんだから、他とは違うかもしれないけど、私のやり方でいいやと思ってやってます。
植物の生き方を知ると
少しラクになります。
植物園にくるといいなと思うのは、植物がしたたかに生きてることがわかるのよね。そういう話をするとみんな共鳴してくれるし、いっときでも世間のうさから離れることができるじゃないですか。
ヤブガラシってあるでしょ。ほっておくと手に負えなくなって、桜の木を枯らすほど強力なんだけど、あれだって小さな花が咲いてハチの蜜源になってるわけで、自分の役割として出てくるのよね。生い茂った生垣の中で出てくるときは、はじめ鉛筆みたいに細いのがまっすぐ出て、ピーっと伸びあがって、いちばん上までいって太陽が当たるところに出たときに初めて上の葉を展開して、それからどんどん横にひろがっていくわけ。だから、最初に根元をちょっとカットしてやれば、それですむことなの。でも、彼らだって生きていかなきゃいけないじゃない。
カラスウリだって、冬になると、ひろがった葉っぱが地面にくっついて、そこに球根つくっちゃうの。上が枯れると、球根からまた立ちあがってくる。そういう生態を見てると、ニヤニヤしちゃうの。あなたも生きなきゃいけないし、こっちもそうだし、お互いさまでしょ。対決するんじゃなくて、ちょっと見方を変えれば、細々と生きていけるかなって。そんな感じよ。
今は世の中にいろんな問題があって、本音と建前を使い分けられなくて生きるのがつらい人もいると思うんだけど、大きな生態系から見れば、人間なんてずーっと後から出てきて端っこにいる、小さなかたまりにすぎないじゃないですか。そんな風に広い目で見れば、解決することもあると思うのよね。
追記:小石川植物園でのボランティア活動は、施設の建て替えに伴い、現在活動休止中です。
(2014年9月発行、聚レター130号より)